洒落怖マニア

独断と偏見で集めた怖い話

キャンプの嘘話

真・禍話 激闘編~第2夜より~

創作の怖い話を語るのは好きじゃない。というか怖い。
何故怖いかって?
原因となった出来事を教えてあげるよ。
だから、これから話すのは全部実話。


大学生のころ、暑い夏の日。
その日は暇を持て余したヤンチャ仲間と集まってた。
と言っても、不良とかじゃなくて。ふざけるのが好きな、明るく気のいいヤツら。

コンビニの駐車場の隅で、これから何する、どうする、と話してた。
ゲーセンはもう飽きたし、ナンパは成功しない。
あーでもないこーでもない、と埒が明かない。

「あーもう!ココとにかく暑いわ!!」
「確かに。じゃ川行かねえ?」
「ありだな!スイカ割りもしようぜ!!」
「花火もしたいな!」
童心にかえって遊ぶのも良いな、と盛り上がってきた。

「じゃあさ!もう全部しちゃおうぜ!」
「全部って?」
「キャンプだよ、キャンプ!どうせお前ら明日も何も予定ないだろ?」
「いやでも、テントとか持ってんのかよ」
「俺、昨日パチンコで爆勝ちしたんだよな~」
おぉぉぉぉ!!と皆色めき立った。
「神!神!よっしゃ行こうぜ!キャンプ!!」

皆で車に乗り込み、その足でキャンプに行くことになった。
ド〇キ・〇ーテに寄ってキャンプ用品と食材・酒を買い漁り、カーナビでキャンプ場を検索する。
高速道路に乗れば1時間半くらいの所にキャンプ場があるようだ。
そこを目的地に設定して走りだした。

道中の車内では、夏歌をかけてカラオケ状態の大盛り上がり。
歌って騒いでボルテージは最高潮に達していたその時、
『目的地布巾に到着しました。』
カーナビが告げた。

そこには確かに【〇△キャンプ場】という看板が立っていた。
しかし人の気配がしない。
普通なら管理人がいて、ここで受付して支払いをするのでは…?
古いカーナビだったから、情報が古くて閉業してしまったのだろうか。

「よっしゃー!これ貸し切りってやつじゃん!?」
一人が車から降りて、はしゃいで走り出した。
つられて他のやつらも車から出て走り出す。

心配性な俺だけ1人残されたので、辺りを見回してみた。
看板はボロいけど閉鎖されてる訳では無さそうだし、雑草もある程度手入れされている跡がある。
後から管理人が来たら金を払えばいい。
他の客も今日は奇跡的にいなかっただけだろう。
俺はそう都合良く解釈して、仲間に加わってはしゃぐことにした。

民家も離れているので、俺達は思う存分騒ぐことが出来た。
イカ割をして、種が歯に挟まって大笑い。
バーベキューで焦げた肉や野菜を、じゃんけんして負けたやつに食べさせて大笑い。
川の中州に誰が早く到着するか競っては大笑い。
酒を飲んでいたこともあって、とにかく全部が楽しかくて腹がよじれるほど笑った。

夜8時。花火をし終えた頃に俺達のテンションはようやく落ち着いた。
この日は月が細く、辺りは闇に包まれていた。
川のせせらぎと、虫の声、焚き火のパチパチとなる音だけが聞こえる。

俺達はテントに入り、ド〇キで買った安いランタン風LEDライトを囲んで座った。
そして1人がこう切り出した。
「これは…怖い話大会するっきゃねぇな」
真夏のキャンプ、そして夜のイベントと言えば定番だろう。

しかし、ここにきて今日はじめてのつまずきがあった。
誰も怖い話をちゃんと語れないのだ。

一人ずつ順番に話し始めたはいいが、何というかもう滅茶苦茶だった。
さっき死んだお爺ちゃんがもう1回死んだり。
ヨーロッパの都市伝説のはずなのに落ち武者が出てきたり。
鉄板であるはずの、最後に「お前だ!」と叫ぶタイミングをミスってしらけたり。
酒が入って頭や口が回らないせいか、全く怖いムードにならないのだ。

せっかくの完璧な一日が、尻すぼみで終わってしまいそうな気配がする。
これはマズい、と俺は思った。
幸いまだ俺の話す番ではないので、記憶の中の怖い話を必死で探し、やっと1つ思い出した。

かなり前だけど、弟とネットである動画を見た。
確かフィリピンだかマレーシアで、川の中州に女性が取り残されてしまったという映像だ。
豪雨で増水して濁流が走る川。
レスキュー隊も手が出せず、もうただ見守ることしか出来なかった。
濁った水がみるみる内に女性の太もも、腰を飲み込んでいく。
救助ヘリも間に合わない。
家族の悲痛な声が響く中、上流から大きな木が流れてきた。
もう助からない、木にぶつかって川に呑み込まれてしまうー
そんな時、女性は突然踊り出した。
きっと絶望的な状況に精神が壊れてしまったのだろう。
目は泣いているのに、口は笑っているーそんな表情で踊り続けた彼女は、そのまま川に呑まれて姿が見えなくなってしまう。
そんな後味の悪い動画だった。

よし。ちょうどさっき遊んだ川にも中州があったし、この映像と組み合わせてひとつ怖い話をでっち上げよう。

そして俺の話す順番になった。
皆すでに白けきっていたので、俺は雰囲気作りから始めた。
眉間にしわを寄せ、声を潜めてこう切り出した。
「実はさ…皆が楽しそうだったから昼間言えなかったんだけど…」

すると皆の意識がぐぐっと俺に向くのが分かった。
「え、何だよ急に…」

よし、掴みは成功。
俺は座り直し、姿勢を正して真剣な眼差しで皆を見回した。
するとだらけていたヤツも座り直し、こちらを不安そうな顔で真っすぐ見つめた。

「川の中州あったでしょ?昼間皆で遊んだ中州。あそこで、実は前に人が死んでるんだよね」
「マジかよ…」
「嘘だろオイ…」
白けた空気はすっかり無くなっていた。

俺は映像を思い出しながら、脚色して話しを続けた。
「ちょうど今くらいの時期にね、女子大生たちがここにキャンプに来てて。
 その日は雨が降ったり止んだりだったんだけど、まぁ大丈夫でしょってんで、あの中州で遊んでたんだって。
 でもああいう所って、気づいた時には水位がかなり上がってて、流れも早くなっちゃうんだよね」

誰も茶々を入れず真剣に聞いている。
俺はフゥと一呼吸置いて、話の核心に入った。

「女の子が一人、あの中州に取り残されて。
 もちろん消防隊も呼んだけど、到着する頃には水位は更に増して、流れも激流。
 もう手が出せない状況になってしまってたんだ。」
「マジか…最悪じゃん」

「友達が泣きながら彼女の名前を呼ぶんだ。
 大丈夫だから!頑張ってー!って。
 でも皆、心の中では無理だって分かってた。」
「悲惨だな…」

そこまで話して俺は"踊り出す"という描写を使うことに躊躇いが出た。
実際亡くなっている人がいるのだから、死に際をそのまま話すのは良くない気がしたんだ。
だから話を引き延ばしながら、ちょっと考えていたらあるフレーズがぽんって浮かんだ。

「絶望的な状況で追い詰められた彼女は、岸にいる友人や消防隊に向かってこう言ったんだ。

 『しょうがないですよォ!自分で蒔いた種なんでェ!』
 『ごめんなさいぃ!自分で蒔いた種なんでェ!しょうがないですよォ!!』

 ほとんど泣いてるのに口だけ無理やり笑顔を作って、苦しそうな泣き笑いの声でね。
 その彼女の言動があまりに衝撃的で、見た人はみんなトラウマになった。
 そして申し訳なさそうに、泣き笑いの声で叫んだまま彼女は流れに呑み込まれていったー」

ゴクリ、と他のやつらの息をのむ音が聞こえた。
皆の顔を見て、俺の創作怖い話は大成功だ!と確信した。
あとはお決まりの流れで話を締めくくれば良い。

「そんな訳で、ここのキャンプ場では毎年その時期になると…」

「自分で蒔いた種なんでェ、しょうがないですよねェ」

川から女の声がした。
それも岸部ではなく、川の真ん中。中州から。
全員が固まって動けなくなった。

「自分で蒔いた種なんでェー、しょうがないですよねェー」
再び女の声がした。
泣いているような笑っているような女の声。
聞き間違いではない。

「ちょ、待てよ。これ何?ドッキリなの?」
一人が希望を求める様に呟いたが、誰も反応しなかった。
男ばかりの6人で車に乗ってやって来た。
他に移動手段はなく、こんな山奥のキャンプ場でこんな時間に女が来る訳がない。
というか、俺がたった今創作した話だ。仕込むなんて出来るはずない。

ざぶざぶざぶ。
浅い川を歩いて渡る音がする。

「自分で蒔いた種なんでェ、しょうがないですよねェ」

女は川を渡り終わり、湿った足音を立てながら真っすぐテントに向かってくる。
声も先ほどより大きく、明瞭になっていた。

この時点でテントから出て逃げ出せばよかったのだが、腰が抜けていて動けない。
それに、テントの出入り口の前に座っている先輩が動かなかった。
いつもは頼りになる先輩が額に脂汗をびっしりにじませて、動くそぶりもなく座ったまま俺にこう言った。

「なぁ、この時期になると毎年女が川から来るんだろ。
 それで、どうなるんだよ。声がして来たらどうなるんだよ。
 近づいてきたらどうなるんだよ?」
先輩は苦しそうな顔で何度も尋ねてくる。

「え…それで…どうなるって……」
俺の頭の中はグチャグチャに混乱していた。
たった今でっち上げた話なのに、本当に女が現れた。
逃げなきゃいけないのに先輩が話の続きを催促してくる。
続きなんてないのにー

その瞬間、俺の脳内にある言葉が浮かんだ。
あまりにも自然に浮かんできた、自分の意思ではないその言葉を思わず口に出しそうになった。
でも言えない。こんなこと、絶対言えるわけがない。

「自分で蒔いた種なんでェー、しょうがないですよねェー」
川原の石をじゃりじゃり踏む音と共に、女はゆっくりとこちらに近づいてくる。

「それで!!それでどうなるんだよ!女が来てどうなるんだよ!!!」
先輩はもはや怒鳴りつけるように言う。

俺の頭の中には、さっきからずっと答えは浮かんでいる。
"誰かが引っ張られて行ってしまう"と。

浮かんでいるが、口に出して言うわけにはいかない。
これを言ってしまったら、本当にそうなってしまう。本能が警鐘を鳴らす。
俺は必至で、口から勝手に出ようとするその言葉を押しとどめた。

「自分で蒔いた種なんでェ、もうしょうがないですよねェ」
声はもうテントのすぐ側に来ていた。

「なぁ!どうなるんだよ!!声が聞こえてきたらどうなるんだ!!」

俺は死ぬ気であの言葉を押しとめて、絞り出すように無理やりこう言った。
「みんなで!声に反応せず!!朝まで我慢すれば!何とかなる!!!!」

言った瞬間、テントが凄まじい勢いでグラグラと揺さぶられた。
そして薄い布越しに女の絶叫が響いた。

「違うでしょォ!わたしがァ!何人か引っ張って行くんでしょォォォ!!!!」

眩しさと冷たさで目が覚めた。目を開くと一面の青空だった。
起き上がってみると、そこはあの中州だった。

「うわっっ」
思わず悲鳴を上げる。
全身ずぶ濡れで、ヒジや手首、ヒザに擦り傷や切り傷が無数についている。
逃げ出したのか。引きずられたのか…。

川を渡ってテントに戻ると、中には何人かが座ったまま気絶していた。
川辺にもケガをしてる先輩らがいて、起き上がってこちらに歩いてきた。

ド〇キで買っていた救急セットがあったので、お互いに消毒して絆創膏を張り合う。
俺は自分のせいでこんな事になったと思い、責任を感じて押し黙っていた。

すると額に大きな擦り傷を作った先輩が笑いながらこう言った。
「いやー、マジで酒は飲んでも呑まれるな!だな。
 お前なんて中州で寝てただろ?酔った勢いでやらせちゃったのかね。
 覚えてないんだわ、ごめんな。」
「俺も全然覚えてない」
「よっぽど飲んだんだな~」
「まぁ昼間から飲んでたからな!」

仲間は誰一人として女の事を覚えていないようだ。
俺は今もどこかから、あの泣き笑いの声がしそうで気が気でないのに。

「確か、お前が怖い話してさぁ」
俺の名前が出てドクンと心臓が縮まった。しかし、
「その話がめっちゃ怖かったのは覚えてるんだけど、どんな話だったのかを全然思い出せないんだわ」
「俺も俺も!どんな話だっけ?」

俺以外の全員が、女のことはおろか、あの話についても記憶になかった。

荷物をまとめて車に乗り込み、無事に帰宅することが出来た。
俺を含めた皆のケガもその内治り、その後は平穏な日々を送っている。

だが俺はどうしてもあの女のことが引っ掛かっていたので、自分なりに調べてみた。
あの古びたキャンプ場で本当に死んだ女がいたのか。
中州で事故はあったのか。

結論から言うと、かなり前に若い女性が一人、あそこで亡くなっていた。
ただし、中州に取り残されて亡くなった訳でもなく、ましてや夏でもなかった。
どこから流れ着いたのか、それともここで溺死したのかは分からないが川岸で倒れているのが発見されたらしい。
遺書もなかった事から事故死として片づけられたが、ご遺体が発見されたキャンプ場ということで客足は遠のき、あのように寂れてしまったようだ。

つまり。
あの日起きたことは、その場にいた霊が俺の創作話に乗っかって来た。
中州も増水も関係ない女の霊が、俺の話に合わせてきた。
こんな怖いことはない。

だから俺は創作話はもう二度と、しないんだ。