小銭入れ
まがらじ~第1回より~
あの日、私はあまり知り合いのいない飲み会に参加していた。
合コンというか、街飲みというか、そんな感じのラフな飲み会。
話題はいつしか怖い話・怪談になって、皆結構盛り上がってた。
私は話すような体験談もないし聞き役に徹してたんだけどね。
誰かが心霊体験を話し終えたあと、正面に座っていた男性がぽつりと
「あぁ、そんなこと俺もあるなぁ」
って言った。
大人しそう、というか地味な男性で、声も小さかったから誰も反応しない。
私は目が合っちゃってたし、これは聞いてあげた方が良いのかなって思って聞いてみた。
「なにか体験されたことがあるんですか?」
男性はビールをぐびっと一口飲んでからこう言った。
「いや、たまにね。小銭入れに乳歯が入ってるんだ」
「えと、お子さんの乳歯ですか?」
「ううん、俺独身。」
聞けば、乾ききっている小さな乳歯が、気が付くと小銭入れに1本入っているのだとか。
「その乳歯、どうしてるんですか?」
「もちろん、捨ててるよ。
今までに大体20本くらいは入ってたかな。」
子ども一人分の乳歯の数を超えてるじゃない…
少し不気味だった。
「そんなに…何か心当たりはあるんですか?」
「俺の友達って結構過激なイタズラするやつがいるから、まぁ誰かが隙を見て入れてるんだろうって思ってたよ。
結果、違ったけどさ。」
「え、違ったって、どうして分かったんですか?」
男性は眉をひそめてこう話した。
「ある朝、自販機に飲み物を買いに行こうと思って、財布の小銭を確認したんだ。
小銭入れの中身は百円玉が2枚だけだった。
よし、これならペットボトル買えるって思って、そのまま財布を手に持って自販機に行った。
それで、自販機について小銭入れを開けたら、乳歯が1本入ってたんだ。
…俺がずっと手に持ってる財布に、誰かが乳歯を入れられる訳ないだろ?」
思ったより不気味な話だったから笑いに変えたくて、冗談っぽくこう聞いてみた。
「怖いですね~。
とか言って実は、乳歯が勝手に財布に入る心当たり、あるんじゃないですか?」
「そんなのある訳ないだろ~!」
って笑って答えてくれると思ってた。
でも男性はスンって真顔になって、私を正面から凝視した。
(え、え?何かマズい事でも言ったのかな…)
オロオロすること15秒。
男性がやっと口を開いた。
「まぁ、無いわけじゃないかな。」
気持ち悪くて、それ以上は何も聞けなかった。
いや、聞きたくなかった。
適当な理由をつけて席をたち、幹事にお金を払って帰宅した。
もうあの飲み会に行くのはやめようと誓った。
男性の財布には今でも定期的に乳歯が入っているのだろう。