洒落怖マニア

独断と偏見で集めた怖い話

右から左

燈魂百物語~第3夜より~

高校生のとき、田舎にある祖母の大きな家に泊まった夜の話。

あれは確かお盆の頃。
親族一同が集まってかなりの人数だった。

時刻は22時。
大人たちは居間で酒を飲んでどんちゃん騒ぎ。
俺と同年代の子供はいなくて、皆幼稚園とか小学生だから既に寝てしまった。

田舎で携帯の電波も悪い。
暇だし、俺も寝ることにした。

多分0時くらい。
ふと目が覚めたら金縛りにあっていた。
はじめての金縛りに実はちょっと興奮してた。

というのも、俺は柔道部で体格も良い。
体力もメンタル面にも自信があったし、幽霊とか全然信じてない。

金縛りをパワーと根性で振り切ってやろうと、体にめいっぱい力をこめた。
しかし指先すら動かせず、目も開けられない。
声を出そうとしても、「ぁ…ぁぁ…」と蚊の鳴くような声しか出せなかった。

流石にちょっと怖くなってきた時に、妙な気配を感じた。

自分の寝ている布団の足元を、誰かが歩いている気配。
右から左へと、ゆっくりと音もなく歩いている。
目は未だ開けられないのに、歩いているのは女だと何故か分かった。

恐らく布団の左端をちょっと過ぎた所まで歩いた時、気配がフッと消えた。
同時に金縛りも解けた。

俺は跳ね起きて、部屋を出て階段を下り、大人たちのいる居間まで走った。
軽く息切れしながら居間に入ると、酔っぱらった大人たちが
「どうした~?寝れねぇのか~?」と声をかけてきた。

「いや、えーと、金縛りにあってさ。」
そう答えると、大人たちは皆大笑いしだした。

「そんなデカい図体して金縛りってよぉ!!」
「なんだそりゃ~まだまだ子供じゃの~」
「おめぇ、意外と怖がりか!」
赤ら顔のオッサンたちがゲラゲラ笑う。

せっせとお酒や料理を運んでいるおばさん達も
「あらあら、困ったちゃんだねぇ」
「金縛りなんて…まったく」
と微笑みながら通り過ぎていく。

誰も信じてくれないし、これ以上話しても笑われるだけだな、と思った。
でも寝室に戻るのは少し怖い。

どうしようかと居間の入り口でつっ立っていた時、祖母が宴会の席から離れて近づいてきた。
「怖い夢でも見たのかねぇ。大丈夫かい?」
と優しい笑顔で言いながら、俺の背中に手を当てて優しく廊下へ誘導する。
寝室まで連れて行ってくれるのだろうか。

廊下を2,3m歩いたところで祖母はピタリと歩みを止めた。
そしてニコニコと優しい表情だったのが、眉間にしわを寄せた険しい表情にすっと変わった。
その怖い顔のまま、俺に小さな声で訊いた。

「右から左だったのかい?」

「え?…あ……あぁ…うん。」

「・・・・・・なら大丈夫。
 よし、良かった良かった。あっはっはっは」

祖母は大笑いしながら居間へと戻って行った。
何が大丈夫だったのだろう。