洒落怖マニア

独断と偏見で集めた怖い話

ルンバの家

禍話~第3夜より~

九州に「ルンバの家」という心霊スポットがある。
ただの廃墟らしいのだが「あそこは本当にやばい」と皆噂している。
霊感がある人は誰も近づかないらしい。
しかし肝心の"何が"やばいのかは誰も教えてくれない。
どうしてルンバの家なのかも分からない。

ある日、暇を持て余していた大学生グループが噂を確かめようと肝試しに訪れた。
ルンバの家は住宅街にあるごく普通の二階建ての家だった。
鍵が開いていたので、なんなく侵入できた。
ルンバの家には家具が1つもなく、がらーんとしていた。

「ルンバが掃除しやすい家だからルンバの家ってことかな」
メンバーの一人が冗談っぽく言うと、皆ふっと気が抜けた。
なんだ、噂はガセか。特に怖い所もないし、ホコリっぽいだけだ、と。

ーさて、グループの中には1人秀才がいた。
特待生で入った彼は勉強勉強ではじめは浮いていたが、グループに入り"大学デビュー"を果たした。
普段は仲良くつるんでいるが、他メンバーは頭の良い秀才を妬むこともあったのだろう。
ルンバの家で秀才をビビらせてやろうと、密かに作戦を練っていたという。

その作戦はこうだ。
秀才を家の奥の方に行かせておいて、その隙に他メンバーは外へ出る。
マッチョが玄関ドアを押さえて秀才を少しの間、閉じ込める。

そして作戦通り閉じ込められた秀才はパニックし、ドアが壊れるほど体当たりしながら
「開けろ!開けてくれ!!頼む!!!」
と叫んだ。

しばらく皆で作戦成功を祝い、取り乱す秀才を笑っていた。
しかし、予想以上の反応というか、本気で怖がって叫んでいる秀才が可哀そうになり、そろそろ出してあげようと、玄関ドアを押さえていたマッチョを下がらせた。
と同時に玄関から飛び出してきた秀才は、叫びながら敷地を飛び出して、そのまま走り去ってしまった。
一同呆気にとられたが、これはただ事ではないと慌てて秀才を追いかけた。

秀才は数百メートル先のコンビニにいた。
駐車場の隅でうずくまり震えている秀才に声をかける。
一体何があったのか?
秀才はまたパニックになりながらも、中での出来事を話してくれた。

奥の部屋を見ているとき、皆の走る足音と玄関ドアが閉まる音がしたので、閉じ込められたのが分かった。
しょうもない悪戯しやがって、と思いながら玄関ドアを開けようとガチャガチャやってみた。
まぁ想像通り開かない。誰か押さえているんだろう。
別に怖くはなかった。
この家に何もないことは、さっき皆で確かめて分かっていたから。

その時、家の奥で物音がした。
スーっていう、何か軽い物を引きずるような音。

(誰か残って脅かそうとしているヤツがいるのか?
 いや、俺が先頭に立って家の奥を見ていたんだからそれは無い)

そう考えながら懐中電灯で音の鳴る方を照らしていると、奥の部屋から何かが出てきた。
小学校低学年くらいの女の子だ。

女の子は廊下を滑るように、足を動かさず移動していた。
スーという音は移動音のようだ。
女の子は何故か右の手のひらを壁につけたまま移動している。

こちらを向いてニヤニヤしながら何か呟いているが聞こえない。

女の子は玄関に近づいてきたが、奥から2番目の部屋の中に消えていった。
どうやら右手をついた壁沿いに進んでいるらしい。

(あ、これはヤバいやつだ)
「開けろ!」と叫んでドアを叩いても、外では仲間の騒ぐ声が聞こえるだけだった。

部屋の中の壁を一周したのだろう。
女の子がまた廊下に出てきた。

先ほどより近づいたせいか、ぼそぼそ呟いている内容が少しだけ聞こえた。

「……したら…だよね」

そして玄関から一番近い部屋に入っていった。
次に部屋から出てきたら、もう俺のいる玄関だ。

俺は全力でドアを叩き、叫んだ。
仲間はまだ開けてくれない。

スーという音が近づいてくる。
振り返ると女の子がすぐそこに出てきていた。

女の子は俺の目を見て、はっきりとこう言った。

「タッチしたら交代だよ」

そして左手を俺に向けて伸ばしてきた。

俺は神頼みしながら玄関に体当たりした。
するとドアが開いた。(タイミング良くマッチョがどいた)
少しでもあの家から離れたくて、何も考えずにここまで走った。

秀才はそう話し終えると、ふらふらと帰っていった。
だからルンバの家って言うのか。と他メンバーは思った。