洒落怖マニア

独断と偏見で集めた怖い話

アイスの森

禍話~第5夜より~

"アイスの森"っていう心霊スポット知ってる?
いや、知ってるわけないか。
全然有名じゃないし、正式名称もアイスの森じゃない。
今僕が適当につけた名前。
でも知ってる人が聞けば「あー!あそこね!」ってなると思う。

え?何で正式名称を言わないのかって?
それはね、誰にも行って欲しくないからだよ。
あそこは本当にやばいから。
洒落にならない。

そんなこと言われたら気になるよね。
今から話すよ。
でも約束して。
もしそれらしい場所を思いついたり、見つけても、絶対に行かないって。
いい?
じゃあ、話すね。

あれは、僕が大学3年生の時。
サークルの部室で各々作業に取り組んでいた時、先輩が突然こう言った。

「アイスの森、行こうぜ!」

その場にいたメンバーは何事かと先輩の顔を一瞬見たが、誰も反応せず作業に戻った。
当然である。
アイスの森とは、この大学で語り継がれる心霊スポットなのだが、車で片道5時間かかる山奥にある私有地。
しかも侵入者は即通報されるという噂だ。
わざわざそんな場所に行くのは、よっぽどの暇人か変わり者だ。

誰にも相手にされなかった先輩は僕にすがってきた。

「なぁ頼むよ~一緒に行ってくれ~」

「嫌です」

「もうお前しか頼める人がいないんだって~」

「通報されたりでもしたら、就活に影響が出るので無理です」

「じゃあ入り口で待ってて良いから!見張っててくれよ~」

「…めんどくさいです」

「よし!分かった!1週間学食おごる!!これでどうよ!?」

「…行きます。でも見張るだけですよ?」

「分かってるって!よっしゃ~!アイスの森の真相を暴くぞ~!!」

学食につられるなんて、我ながらアホだと思ったけど、仕送り貧乏学生の僕には魅力的な話だった。
どうせ行ったって何もない。
1日ドライブに付き合ったと思えばいい、と気楽に考えてたんだ。
でも、今でも後悔してる。あの時断っておけば良かったってね。

で、先輩と約束した土曜日。
15時に出発したのに、渋滞だったり途中休憩をはさんだりで、アイスの森に到着したのは22時だった。
山奥の私有地なので、街灯はなく真っ暗。
車のライトを消して、外に出てみたら1m先すら見えない程の暗闇。

先輩が「あ、入り口ここだ!」と、懐中電灯で照らした先には、侵入者を拒むように金網フェンスがそびえ立っていた。
そこにボロボロの看板が結束バンドで取付けられていて
『立ち入り禁止!防犯カメラ設置中』
と大きく書かれていたが、あまり意味はなさそうだ。

ここに来るまでの山道に民家は全然無かったし、もし通報されても町から警察が来るまでに充分逃げられそうだ。
しかもカメラの位置からして、車のナンバーは映らないから後日捕まる心配も無さそう。
先輩もきっと同じことを思ったのだろう。

「なぁ、こんな真っ暗闇に一人でいる方が怖くないか?
 懐中電灯は1つしかないぞ?だから一緒に行こうぜ!」
ニヤリと笑いながら先輩が言った。

たしかに真っ暗な車に一人で残されるのは怖かったから、仕方なく先輩について行くことにした。
先輩にしてやられたみたいでちょっとムカついたけど、怖いもんは怖い。

さて、2人で侵入すると決めたは良いものの、フェンスを越えないことにはどうにもならない。
結構高さがあるから、この暗闇の中乗り越えるのは危なそうだ。
どうにかして入れないか先輩とウロウロしていると、端の方に大人1人が通れそうな穴を見つけた。
経年劣化で出来た穴を、僕たちみたいな侵入者がペンチで広げたらしい。

「ラッキー!ありがとう!過去の偉大な侵入者よ!!」
先輩は訳の分からない感謝を述べて、穴を通り抜けた。

そうして僕たちはついにアイスの森に侵入した。

懐中電灯とスマホの明かりを頼りに、ゆっくりと進んでいく。
風で木がザワザワ、草がガサガサと鳴って怖いっちゃ怖いが、他には何もない。
まぁ夜の森はどこもこんなもんだろうな、という感じ。

拍子抜けして、あとちょっと見たら戻ろうか~と話していた時、何か尖ったものを踏んだ気がした。
スマホで照らしてみると、木の棒が地面にささっていた。
どうやら僕はこれを踏んだらしい。

先輩が「どうした?」と寄ってきて、明るい懐中電灯で照らしてくれた。
すると木の棒じゃなくて、アイスの棒だということが分かった。
ガ〇ガ〇君みたいな、よくある棒アイスについてる棒。

なんじゃこりゃ?と拾い上げて見てみると
"ぽち"とマジックで書いてあった。

「なぁ、こっちにもささってるぞ」
先輩がそう言って拾ったアイスの棒には
”たまちゃん”と書いてあった。

辺りを照らすと10本くらいのアイスの棒がささっていて、その全てに
”ころ”
”ぴーちゃん”
”はむちゃん”
とペットの名前らしきものが書かれていた。

「えーと、アイスの森ってペットの墓場ってことですかね?」
「なーにが心霊スポットだよ!ただ近所の人たちが不法埋葬したってだけじゃんか!」

「あ。先輩、あっちの方にもアイスの棒がささってます」
僕は5m先くらいに、アイスの棒が5,6本ささってるのを見つけたから近寄ってみた。

”ねこ”
”かえる”
”うさぎ”
”からす”
”いぬ”

「先輩、これヤバいかもしれません…
 動物を殺して楽しんでるやつがいるのかも…」
「あぁ。しかも俺気づいちゃったんだけど全部同じ筆跡じゃね?
 全部同じヤツが書いてるっぽい…」

3m先にまたアイスの棒が3,4本ささっている。

"もみじがり"
"はいきんぐ"
"さんさいとり"
"どらいぶ"

「…紅葉狩り?」
「ドライブ…?」
僕たちは思考が追い付かなくて、いや、その意味を考えたくなくて固まってしまった。
先輩と顔を見合わせて、無言で引き返そうとした時。

ガサガサガサガサガサガサガサガサ

20m先くらいだろうか。
何かが茂みをかき分けて近づいてくる音がした。

「え!?え?何!?」
僕たちは身を固めて懐中電灯でその方向を照らした。
すると…

「きみたちは、きもだめしーーーーー???」

40代くらいの男が満面の笑みでこちらに走ってくるのが見えた。

僕たちは踵を返して全力ダッシュした。
振り返らず、無我夢中でフェンスを目指した。

フェンスの穴を我先にとくぐり抜けて、車に乗り込んだ。
ドアロックをかけた所で、やっと息を整えられた。

あいつは!?
懐中電灯でフェンスを照らすと、フェンスの向こう側に中年男が張り付いているのが見えた。
満面の笑みで。

それから山道を飛ばしまくって、休憩も挟まず走り通して、やっと地元についた。
先輩と僕はそこで約束したんだ。
『アイスの森の情報は封印しよう』って。
あの中年男に誰も近づける訳にはいかないからね。